2012年にスタンフォード大学のソーシャルアルゴリズム研究室で設立された企業 NovoEdが提供する、オンライン学習プラットフォーム「NovoEd」。日本ではあまり知名度が高くありませんが、MOOC(大規模オープン公開コース)のなかでもグループラーニングを重視していることで有名な学習プラットフォームのようです。
いくつかの講義が無料公開されていますが、私は「LXデザインの基礎(Foundations of Learning Experience Design)」という講義を受講。2020年8月から5週間にわたり、オンラインで世界中の受講者と協力しながら少しずつ課題を進めていき、先日に全課題を終えて修了証書を頂きました。

興味半分で始めたものの、飽きることなく最後まで学べる仕組みが無料で公開されていることに感動したので、本記事では「LXデザインの基礎(Foundations of Learning Experience Design)」の内容を一部紹介します。
- NovoEdでオンライン学習をはじめたい
- LXデザインを学びたい
という方にとって、少しでも役に立つ情報を届けられると嬉しいです。
前提:当時の状況と目的
- 私に継続したオンライン学習の経験はない。TEDやYoutubeで気になる講義をつまみ食いすることはあっても、一定期間にわたって同一の講義を受講するのは初めての経験
- 今回受講したのは、2020年8月1日から5週間にわたり開講される「Foundations of Learning Experience Design(LXデザインの基礎)」という講義
- 言語は全て英語。わりと平易な単語が多いので、英語を使うことに抵抗がない人なら翻訳しなくてもだいたいわかる。わからなければ無料の翻訳ソフト使えば問題なし(個人的にはGoogle翻訳よりもDeepLがおすすめ)
- 講義は大きく5つに分割されていて、1週間で1つしか受講できない。2週目になると1週目の分は受講できなくなるし、早めに1週目の分が終わったからといって2週目の分を先に受講することはできない
- 講義の目的は、LXデザインの基礎を学び、最終的に自分で1つのモジュールを完成させること。私は普段、B2Bマーケティングの支援会社で働いていることもあり、LXデザインの観点からB2Bマーケティングを学べるようなモジュールをつくることにした
講義の紹介:Introduction
- はじめにNovoEdからのウェルカムメッセージを視聴する。一緒に学ぶ、というプラットフォームの趣旨が説明され、期待感が高まる
- プロフィール設定や、オンライン学習プラットフォーム「NovoEd」の使いかたを一通り解説。わりと操作は簡単な感じがする
- NovoEd サポート体制の紹介をうける。Meet your peers、Meet the Teaching Team、Meet the Teaching Assistantsの3段構え。オンラインだけど、一緒に学ぶ感が高まる
- 3段構えのサポート体制に加えて、「Join a Learning Squad」というオプションが存在する。参加は任意だが、好きなチーム(Squadは分隊の意味)に入ることで一緒に学ぶ仲間を見つけやすい
- 基本的な説明が終わると、受講者全員がリアルタイムで視聴するKickoff Webinarがある。質疑応答などもあり、たとえオンラインでもオンボーディングがスムーズにいく印象。もちろんリアルタイムで受講できない人のために、後日アーカイブ視聴もできる
講義の紹介:Week 1~5の全体像
- 1週間分の講義はおおよそ7つのパートで構成されている。各週ごとにテーマが異なるが、構成の流れは全週で共通している。ざっくりいうと「期待を理解する」→「知識を習得する」→「仲間と実践する」→「理解を深める」という流れ
- 1~3つ目は「期待を理解する」「知識を習得する」パートで、割と簡単な内容。LXデザインに関する動画を見たり、記事を読んだりで、学びたい欲求を持つ人は楽しいと感じる気がする
- 4~6つ目は「仲間と実践する」パートで、少し難易度が高まる。面倒な一方、他の受講者からフィードバックもらえたりするので、私もフィードバックしよう、と思える。また宿題(Assignment)としてポイントもつき、一定ポイント以上を獲得できないと修了証書がもらえないので、危機感も相まってやろうとなる
- 7つ目は「理解を深める」パートで、専門的な内容やディスカッションを扱う。時間がないときはスキップもできる
講義メモ:Week 1「Foundations of Pedagogy」
- 自分がつくるモジュールのゴール(Learning Objectives)を考えるときは、Bloom’s Taxonomyを参考にする
- Bloom’s Taxonomyでは、受け取った知識をどう使っていくか、について「Remember → Understand → Apply → Analyze → Evaluate → Create」の順番で複雑化していくと説く

- Learning Objectivesを考える上では「Action」にフォーカスすることが大切。行動に繋がらなければ意味がない(参考:Why you want to focus on actions, not learning objectives)
講義メモ:Week 2「Module Analysis」
- モジュールの全体像を考えるときは「LXD Module Design Rubric」を活用する
- LXD Module Design Rubricは「CRITERIA × QUALITIES」の観点で構成されている

講義メモ:Week 3「Design Your Assignment」
- Assignmentを考えるときは、 Principles of Andragogyを参考にする
- Principles of Andragogyは、Malcolm Knowlesが提唱した理論で、Adult Learning において考慮すべき4つの要素をまとめたもの

ノウルズの理論は、四つの実にシンプルな要請で語ることが出来る。
1. 成人は自分たちが学ぶことについてその計画と評価に直接関わる必要がある(自己概念と学習への動機付け)。
引用:Wikipedia「アンドラゴジー」
2. (失敗も含めた)経験が学習活動の基盤を提供してくれる(経験)。
3. 成人は、自分たちの職業や暮らしに直接重要と思われるようなテーマについて学ぶことに最も興味を示す(学習へのレディネス)。
4. 成人の学習は、学習内容中心型ではなく、問題中心型である(学習への方向付け)。
講義メモ:Week 4「Content Creation & Curation」
- Contentを考えるときは、「Chunking(ここでは「こま切れ」の意)」の力を理解すべし(参考:How Chunking Helps Content Processing)
- ContentはCreationでもCurationでも良いが、重要なのは、学習者に負担をかけないようにすること。選ぶコンテンツはよく考えて、さまざまなメディア形式(記事、動画、音声 etc…)の情報を選ぶことが大切
講義メモ:Week 4.5 「Developing Course Community」
- オンライン学習にはコミュニティの力を活用できる。ブロックチェーンやシェアリングエコノミーから学べる特長は3つ
- 1つ目は、Public Visibility + Feedback = Accountability。ブロックチェーンではすべての取引が可視化されていて、シェアリングエコノミーではすべてのユーザーは彼らの経験を公開コメントに残し、フィードバックしあう。タイムリーで可視化された個別のフィードバックは、Accountabilityを引き出す。オンライン学習で言えば、初回の提出物に対してコメントが1つでもつくと、その後に講義を完遂できる確率が25%上昇する。同僚やメンターからリアルタイムにコメントもらえる仕組みは大切
- 2つ目は、Embrace Decentralized Control。ブロックチェーンでは各取引は中央機関の承認なしに行われるし、シェアリングエコノミーではユーザー同士の直接的なやり取りができる。従来の学習(Course Assignment)では、今からはブレストの時間、今からはアイデアを共有する時間、と講義提供側に時間をコントロールされていた。一方、NovoEdが提唱する学習方針(Team Project Strategies)では、講義提供側が時間のコントロールをしない。代わりに、基準が明確な提出物(テンプレート化されたもの)と、完了目安時刻を提供する。また、希望者には追加のチーム課題なども提供する
- 3つ目は、Redefined Community Management Responsibilities。ブロックチェーンではローンチ前に取引の仕組みは確立されたし、シェアリングエコノミーではユーザー同士のやり取りを積極的に促して監督する。NovoEdのオンライン学習でも、現在進行形で進む講義の中で、コミュニティとしての交流を促している。ディスカッションや、各コメントへの返信、双方向性のあるウェビナーなど
- コミュニティが学習者のモチベーションを最大化するのは、動機が「内発的」で、「興味がある、愉しい」と感じることを促すから。わくわく学ぶこと、学ぶこと自体が楽しい、という状態をつくることが大切

講義メモ:Week 5「Prototyping & Feedback」
- モジュールをつくるときは、早めにプロトタイプをつくり、学習者からフィードバックをもらうことが大切
- モジュールの設計段階で、学習者からフィードバックやインプットを得ることで、自分が届けたいものが、学習者にどのように届くのか(受け取られるのか)、というインサイトを得ることができる
- プロトタイプに求められるのは質ではなくスピード。不完全、粗い、曖昧、安い(無料)、単純、のような特徴が求められる
おわりに:Final Module (最終課題) を終えて
- 私が最終的につくったモジュールはこちら。Development of B2B Marketing Methodと称して、学習者がB2Bマーケティングのメソッドをつくる力を得られるようにすることを目指して設計した
- 職場でもこのモジュールに近しいことを実施する機会を得ている。まだ取り組み途中なので、きちんと学習者が成果を得られるような、わくわく学べるLXデザインをつくっていきたい
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