- LXデザインとは何か
- LXデザインの事例
- LXデザインのプロセス
- LXデザイナーに必要な要件・スキル
- LXデザインを学べる講座/セミナー
- Four Week Online Learning Experience Design Course
- LXDCON’20 virtual edition
- Master of Science in Learning Experience Design
- LEARNING EXPERIENCE DESIGN (LXD) CERTIFICATE
- Learning Experience Design for Online Courses and Training
- The OISE Learning Experience Design Certificate
- LSU The Learning Experience Design MicroCred
- フォローすべき著名なLXデザイナー
- LXデザインを学べる本
- おわりに:LXデザインをもっと学びたい方へ
LXデザインとは何か
LX(エルエックス)は、Learning experience(ラーニングエクスペリエンス)の略です。日本語では「学習体験」と訳されることが多いですが、発展途上の分野で定義は曖昧です。私は、学習体験とは人が何かを学習する際に受ける印象だと捉えています。そして、学習体験をデザインすることを「LXデザイン」と呼びます。
※ちなみにLXデザインという言葉は2007年にオランダ人のNiels氏がつくりました。詳しくは以下の記事をご覧ください。
LXデザインの事例
日本の事例
LXデザインという概念がまだ日本に普及していないため、日本国内の事例はほとんど存在しません。(本記事の執筆時点にて、私は見つけることができませんでした。もし日本国内のLXデザイン事例をご存知の方は、コメントで教えて頂けると嬉しいです。)
海外の事例
LXデザインは欧米で発展している分野ということもあり、英語資料でいくつかの事例を見つけることができました。ここではアメリカを拠点に展開する企業NovoEdが提供する資料より、LXデザインの事例として掲載されていたものを紹介します。
■フォーチュン50の銀行「コミュニティこそ学びのカギ」
5 Steps To Learning Experience Design:Case Study:Fortune 500 company discovers “community” as a key learning need
(前略)新入行員の学習プログラムに、銀行の日常業務を理解するだけでなく、従業員同士のより大きなコミュニティをつくる仕組みを導入。(中略)結果、従業員の商品知識が向上しただけでなく、銀行の文化への理解が深まり、互いに学び、支え合う意識も向上した。
■サンフランシスコのデザイン会社「フレームワークで学習目標を設定」
5 Steps To Learning Experience Design:Case Study:Design firm utilizes a framework for creativity to set learning targets
(前略)デザイナーに求められる5つのスキルを明確にした上で、学習者のためにレイアウトしたフレームワークによって、学習者はそれぞれのスキルを習得したときに達成感を得ることができた。(中略)学習者は自分の創造的な能力に自信を持てるようになった。
■無料オンライン大学「インタビュー動画で学習体験を向上」
5 Steps To Learning Experience Design:Case Study:Recorded interviews from global experts enhance learner experience
(前略)大学のコースのほとんどは、1人の専門講師が録画された講義を通じてコンテンツを提供したが、ある講師はこれまでとは異なるアプローチをとり、コース参加者から高い評価を得た。その講師はインドとパキスタンを訪れ、(中略)組織のCEOや創業者へのインタビューを録音した。
LXデザインのプロセス
LXデザインに取り組むに当たり、実際にはどんな手順を踏めば良いのでしょうか?
ここでは、LXデザインの第一人者であるNiels氏が提唱する代表的なプロセスを紹介します。
出典:Learning experience design process
①問いを立てる(QUESTION)
まず、あなたが答えるべき問いを立てます。はじめから明確な問いがあることはありません。一方で、問いの質がプロセス全体の質を左右するため、時間をかけるべき大切なステップです。
②調査する(RESEARCH)
調査対象は「学習者」と「学習成果」の2つです。このプロセスはスキップされがちですが、LXデザイナーの差が出るのはここです。LXデザインの質に差が出るのは、設計レベルや開発レベルの差ではなく、学習者と学習成果に対する理解度の差によるものが多いです。
③設計する(DESIGN)
学習者が学習成果を達成するために必要な体験を設計します。ブレーンストーミングなどで生まれた個々の「アイデア」を組み合わせて、1つの「コンセプトデザイン」に落とし込んでいきます。
④開発する(BUILD)
設計した「コンセプトデザイン」を実現するために、コンテンツのプロトタイプを開発します。新規のコンテンツをつくるか、既存のコンテンツを組み合わせるか。どちらの開発方法が良いかは設計次第です。
⑤試行する(TEST)
開発したプロトタイプが実際に機能するかを試します。はじめから完璧に上手くいくことはありません。最初の設計にとらわれることなく、失敗を許容し、経験から学び、改善を重ねることが大切です。
⑥市場に出す(LAUNCH)
②から⑤のプロセスを繰り返して調整を重ねた後、実際に市場に出します。しかしプロトタイプと同様に、はじめから市場で上手くいくことはありません。全く新しい設計を必要とする、別の問いに答える必要も出てくるかもしれません。基本的に、あなた自身と学習者が結果に満足するまで、この一連のプロセスを繰り返す必要があります。
LXデザイナーに必要な要件・スキル
上記でおおまかな手順を紹介しましたが、ここでは実際に取り組む際に必要となる要件やスキルを紹介します。
基礎理論の理解
LXデザインには、前提となる2つの理論があります。参考文献は英語版と(存在する場合のみ)日本語版を紹介します。
①経験学習(Experiential Learning)
経験学習とは、自ら実際に体験したことから学びを得ることを指します。この学びのプロセスを理論化したものが「経験学習モデル」です。これは経験学習の分野で有名なアメリカの教育学者 David Kolb氏が、Kurt Lewin氏やJean Piaget氏、John Dewey氏らの研究を基につくった理論です。
■参考:経験学習を学べる本
David Kolb氏「Experiential Learning」
上記の日本語版はこちら
②体験デザイン(Experience Design)
体験デザインとは、製品やサービスを利用する人(=ユーザー)に代表されるような、ある「人」の体験をデザインすることです。体験デザインのなかでも、ユーザーの体験をデザインするユーザー体験(User Experience、以下UX)デザインの分野が最も発達しています。UXデザインを考える上で最も有名なモデルはJesse James Garrett 氏が考案した「UXの5段階モデル」です。
■参考:UXデザインを学べる本
Jesse James Garrett氏「Elements of User Experience」
上記の日本語版はこちら
Donald Norman氏「The Design of Everyday Things」
上記の日本語版はこちら
Marc Hassenzahl氏「Experience Design: Technology for All the Right Reasons」
Peter Morville氏「Information Architecture: For the Web and Beyond」
上記の日本語版はこちら
また、本ではありませんが世界中のUX専門家の意見を集約した資料として、UX White Paper(日本語版は「UX白書」)が2011年2月に公開されています。
学習者を理解する力(実経験・インタビュー力・洞察力)
2番目のプロセスに「調査する(Research)」とありますが、LXデザインにおいては学習者の理解が何よりも大切です。
・学習者と同様の課題を抱えていた経験(実経験)
・聞く力、話す力などのインタビュー力
・学習者に関する情報から彼ら/彼女らの深層を読み解く洞察力
学習者の理解という観点で、これらの力が求められます。
ニューロサイエンスの知見
人にとって効果的な設計・開発をするためには、人の「記憶」「学習」「意志決定」などを扱うニューロサイエンス(特に認知神経科学の分野)の知見が役立ちます。
■参考:ニューロサイエンスを学べる本
Eric R. Kandel氏「Principles of Neural Science」
上記の日本語版はこちら
チームをつくる力
LXデザインの全プロセスを1人で行うことは難しいです。学習者にとって最適な体験を届けるためにも、様々な領域のプロフェッショナルとチームを組み、協働する力が求められます。
■参考:チームづくりを学べる本
Daniel Coyle氏「The Culture Code: The Secrets of Highly Successful Groups」
上記の日本語版はこちら
LXデザインを学べる講座/セミナー
LXデザインに関する理解を深めるために活用できそうなセミナーや講座、イベントなどを紹介します。全て海外発ですが、オンライン実施のため日本でも受講可能です。
Four Week Online Learning Experience Design Course
LXデザインの第一人者であるNiels氏が主催するウェビナーです。
– 日時:2020年6月15日~
– 場所:オンライン
– 費用: €395(約48,000円)
LXDCON’20 virtual edition
Niels氏が主催する年に1度のLXデザインカンファレンス。2016年からはじまり、5回目となる今年は初のオンライン開催でした。
– 日時:2020年6月1日~2020年6月5日
– 場所:オンライン
– 費用:€85(約10,300円)※録画を見ることができます
Master of Science in Learning Experience Design
アメリカボストンにあるブランダイス大学の修士号プログラムです。
– 期間:全10週(7月スタート、10月スタートの2種類)
– 場所:オンライン
– 費用:$8,400~(約90万円~)
LEARNING EXPERIENCE DESIGN (LXD) CERTIFICATE
オレゴン州立大学のProfessional and Continuing Educationが提供するプログラムです。
5つのコースを受講することで、LXDの就学証明書を得ることができます。
– 期間:コースによって異なる
– 場所:オンライン
– 費用:Individual Course: $435~(約4.67万円~)、Full Certificate:$1,631 ~(約17.5万円~)
Learning Experience Design for Online Courses and Training
ウィスコンシン大学ミルウォーキー校が提供する講座です。オンライン教育のトップランナーであるLes Howles氏が講師を務めます。
The OISE Learning Experience Design Certificate
トロント大学 オンタリオ教育学研究所(カナダで唯一のオンタリオ州トロントにある教育、学習、研究の大学院)が提供する講座です。3つのコース(必修)を受講することで、LXDの就学証明書を得ることができます。
– 期間:コースによって異なる
– 場所:オンライン
– 費用:$875 per course(約9.3万円/コース)、Full Certificate:$2,625(約28万円/合計)
LSU The Learning Experience Design MicroCred
ルイジアナ州立大学が提供するオンライン講座です。MicroCredと呼ばれる独自形式のプログラム(マイクロラーニングのような短時間で学べる形式)で提供されるもので、全部で5つのコースから構成されます。全コースを無事に終えると、Acclaim(デジタルバッジを通じて個人の能力を認証する世界最大規模のプラットフォーム)を通じてバッジを獲得し、LinkedInなどで保有スキルの証として活用することができます。
– 期間:コースによって異なる
– 場所:オンライン
– 費用:$495 per course(約5.3万円/コース)、Full Certificate:$1,980(約21万円/合計)

フォローすべき著名なLXデザイナー
LXデザイン界隈ではSNSで情報発信される方が少なく、探すのに苦労しました…ここではLXデザイン関連で代表的な方を紹介します。他にも「この人はオススメ!」という人がいればコメントで教えて頂けると嬉しいです。
Niels Floor氏
「LXデザイン」の生みの親。Linkedinにて、LXデザインに関すること、彼が主催するイベント情報などを発信しています。
Julie Dirksen氏
学習領域のコンサルタントとしてフォーチュン500企業やITスタートアップ企業など、多数のクライアントを支援。TwitterやLinkedinにて、彼女自身の講演情報などを発信しています。
Connie Malamed氏
オンライン学習、eLearningを得意とするLXデザイナー。LXデザイン界隈の中では、TwitterやLinkedinによる情報発信が多く、影響力が大きい人です。
LXデザインを学べる本
ここではLXデザインを学べる本を紹介します。
The Little Book of Learning Experience Design
インストラクショナルデザインの専門家(PhD)であるKiersten Yocum氏による著書。
LXデザインの初心者向けに、LXデザインが求められる背景や全体像について、分かりやすく平易な英語で書かれています。
おわりに:LXデザインをもっと学びたい方へ
インターネットをはじめとする技術発展により、
良質なコンテンツが誰の手にも届く時代です。
一方で、学びたい!という気持ちがなければ
どれだけ良質なコンテンツにアクセスできても意味がありません。
学ぼうと思えば何でも学べる時代。
だからこそ、一人ひとりの「もっと学びたい!」を引き出すような
わくわく学ぶ体験を届けるLXデザインが、これからの時代には必要だと信じてます。
冒頭に記したように、LXデザインは発展途上の分野です。
もし私と一緒に学びたい(開拓したい)と思う稀有な方がいらっしゃれば、
ご自身の年齢や所属は問いませんので、コメント頂けると嬉しいです。
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